「届く光」とはなんなのか? 第3回 「続・レコーディングという出来事」

ここですこし話は変わって、ぼくの過去のレコーディング体験について話したい。
マーガレットズロースの初期作品をレコーディングの際、
カフェ・オ・レーベルの原さんが苦心したことは、
どうやってバンドのストーリーや奇跡の瞬間をそのまま真空パックにするかということだった。
そのために荒川土手で野外一発レコーディングしたり、
スタジオでセッティングした状態のままライブを観に行って(ブラッドサースティーブッチャーズ@渋谷クアトロ)、帰ってきてすぐ曲順通りに一気に演奏したりした。

 

この頃、ぼくにとってレコーディングとはどこか神聖な出来事だった。
今思えば土手でやることや、ブッチャーズのライブを観ることが大事だったわけじゃなく
バンドの精神状態を極限まで高めること、そして結果的に「グッと来る」ものにすることが大事だったわけだ。

 

3rdアルバムはピースミュージックの中村宗一郎さんと録った。
中村さんは原さんとは対照的な人で、バンドがどんな音を求めているか、そのために何をするべきか。そんなとても職人気質なタイプだった。
当時ぼくらはどんな音と訊かれても「古い」とか「熱い」とかいう言葉でしか答えられず
中村さんも困ってしまったと思う。
ぼくらが必死にストーリーを求めて演奏すると
「レコーディングで本当に熱く演奏しちゃいけない、熱く演っているようにやらなければ」
とアドバイスしてくれた。
今なら理解出来る。言葉は違うけど、結局は「グッと来るかどうかが大事」ということだ。
若かった僕らと中村さんの出会いは若干の空回りもあったが
「こんな日を待っていたんだ」(ミディ・クリエイディブ)というアルバムは隠れた名盤だと思う。

 

その後ぼくらが思い描いたレコーディングという神話はライブ盤「ネオンホール」(エンジニアは再び原氏)で最高点に到達し、同時に終わりを迎えた。
ぼくらはステージ上で命が果てることを夢見て、結局生き延びた。
レコーディングでここまで命の集中力を高めることは、もうできない。
それにそんなもの、誰も求めていないのかもしれないと、拗ねた。

 

そしてマーガレットズロースは自主レーベル・オッフォンレコードを設立。
エンジニアの松本賢氏と作ろうとしたのは、ライブとは違う魅力を持った録音作品だった。
もっとたくさんの人に聴いて欲しかった。
そこからはじめていろんな音楽を「音」として聴くようになったかもしれない。
「〇〇みたいな感じ」という方法で説明できるようになった。
ミュージシャンらしい単語でコミュニケーションできるようになった。
「DODODO」「ぼーっとして夕暮れ」「マーガレットズロースのロックンロール」。
このあたりからマーガレットズロースを聴くようになったお客さんも多いと思う。

 

上野洋氏と組んでミディから発表した「darling」の録音作品としての精度は過去最高と言える。
精神論ばかりだったぼくの耳でも随分いろんな音が聴こえるようになった。
そして昨年出した「まったく最高の日だった」。
結成20周年、さらにギターの熱海裕司が加わったストーリーと「音」のバランスがうまい具合に調和したロックアルバムになった。

 

前置きが長くなってしまったが、つまりぼくのレコーディング史ははじめ精神的なところからはじまって、挫折(?)し、その後録音作品として完成度を求めるようになっていくという過程を経て現在に至る。
それでは今作「届く光」のレコーディングはどんな位置付けになるのか?
ひとことで言うと精神的な価値観に立ち返った。
「グッと来るか来ないか」とはそういうことで、演奏が間違っていたり、声や音程がおかしかったりしても、結果グッと来たら良い、ということになる。
この「グッと来る」というのはものすごく主観的な価値観なので危険な面もあるが、
いままで20年マーガレットズロースをやって来て、ぼくにも積み重ねてきたものがあったし
集まったメンバーはぼくが最高だと思う演奏家だ。
つまり技術的な裏付けがあっての「グッと来る」なのだ。
それにはやっぱり船戸さんの存在が大きかった。

 

いままではやった方がいいことはやり、入れた方がいい音は入れてきた。
今回はやならくていいことはやらず、入れなくていい音は入れないことに力を注いだとも言える。
バンドのテイクがオッケーになって、さあコーラスを入れましょうというところで
「入れなくてええんちゃう?」と船戸さん。
「でも入れてみてから判断というのは?」とぼく。
「迷うからやらん方がええって!」

 

極端な話、歌詞がまちがっていてもそっちを採用したりした。
「2回まちがったらそっちが本当」とは船戸さんの名言。

 

それから船戸さんは最初から最後までなるべく一回で続けてうたうことを大事と考えていた。
ふちがみとふなとでは途中でとまったらもう一度最初からやりなおしているという。
最近のぼくは1フレーズ1フレーズ、最高の表現で形にすることを大事にしていた。
だからテイクのつぎはぎになっても最終的にイメージしている歌唱に近づけたらよかった。
そんな方法が船戸さんはよくわからない様子で、
「出来上がりに無理がある」
「人間っぽくない」
「飽きた」
とこぼしていた。

 

「夢の人」という曲で、そんなふうにちょっと険悪なムードになって
次の日はじめから歌い直した。
つぎはぎのテイクと一回で最後までうたったテイク。
結局どちらを採用したか、ぜひ聴いてみて想像していただきたい。

 

そんなエピソードを重ねながら、だんだんぼくははじめてレコーディングした頃のことを思い出していった。
レコーディングで大事なことはなんだろう。
もちろんひとつの正解があるわけじゃないけど、
今回の場合は「もう一回やってと言われてもできないこと」がテーマだったように思う。
演奏している指がもつれたり、声が喉にひっかかったり、リズムが裏に入ったり、
ベースのピッチがおかしかったり、
正確な演奏はもう一回そっくりに演奏できるけど
偶然起こった失敗はそれっきり、再現できない。

グッと来る方を選んだら、結果的にそんな愛おしいテイク満載のアルバムになった。
こんなふうにいったらどんなにボロっちい演奏なのかと思うかもしれませんが
そんなことはありません。安心してご購入ください!

(意図と違うことが失敗とは限らない。その瞬間、偶然にどう反応できるか?)

第4回に続く

「届く光」トレーラー動画こちら↓


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